あなたのお仕事について具体的に教えてください。
漫画家です。1980年にデビューしました。直近では、介護現場で働くスタッフを主人公にした作品「ヘルプマン!」を2003年から17年まで、その後も「ヘルプマン‼取材記」「新生ヘルプマン ケアママ!」とシリーズ作品の連載を21年まで続けてきました。
この仕事を始めたきっかけを教えてください。
「漫画家になろう」と決めたのは中学2年生のときです。読んでいた少女漫画誌に新人漫画家募集の告知がありました。告知は毎号出ていたのですが、それまで目にとまることはなく、「漫画を描くことを仕事にできる」ということすら知りませんでした。「こんなに面白い漫画を描いてお金がもらえるなんてなんて楽しい仕事だろう」と興味を持ちました。
とはいうものの、漫画を描いた経験は全くありませんし、描き方もわかりません。画材店で一から相談して道具を揃え、まずは漫画誌の中の作品を模写することから始めました。中学時代に初めてオリジナル作品を描いて投稿し、その後も描いては投稿することを繰り返しました。締め切り直前には先生の目を盗みながら授業中に描くこともありました。しかし、結果は「箸にも棒にもかからない」状態でした。高校の修学旅行の行き先が東京でしたので、それを利用して出版社への持ち込みもしましたが、編集者はまともに読んでもくれませんでした。先行きの見えない状況でしたが、当時の私は「絶対に漫画家になれる」と思っていました。性格的にはポジティブ思考な方ではありませんでしたが、「なれなかったらどうしよう」という「余計なことを考える」ことができませんでした。
高校卒業後は福祉施設に就職しました。そこでの仕事が楽しかったこと、仕事で忙しく時間が無くなってしまったこともあり、1年程度は漫画から離れていました。もし漫画家になっていなかったら、福祉の仕事をしていたかもしれません。その後、私の地元である高知県の漫画家青柳裕介先生が、県内の漫画家志望者を支援する目的で制作していた同人誌への投稿を始めました。そのときに青柳先生から「君はこんなところに投稿していないで、東京の出版社を相手にするべきだ」と後押しをしてくれました。そのアドバイスを元に投稿を続け、最終的に22歳でデビューすることができました。
あなたの強みは何ですか?
「箸にも棒にもかからない」状態が続いたことです。プロとしてデビューしたものの、漫画家としての腕も、知識も、ビジョンも全くない状態でした。しかし、そのことで逆に「特に期待されているわけではないから、失敗しても大してダメージはない」と開き直ることができました。また、特に私自身やその作品に色がついていたわけではなかったため、自分が目指す方向性も、時間をかけて自分で探すことができました。私は何も武器を持たない丸腰の状態で漫画業界に飛び込みました。同じ様に何の強みもないことで落ち込んだり、自信を無くしたりしている人たちを応援し、勇気づける漫画を描こうと思ったのも、私のこうした経験があるからです。
ですから、私の漫画には天才やスーパーヒーローは出てきません。「ヘルプマン!」の主人公である恩田百太郎も平々凡々な人物、むしろ落ちこぼれの部類です。そうした弱い部分を沢山持っている人が、その弱みを克服しながら自分や周囲が幸せになる方向に舵を切っていったことが、多くの方々の支持を得られたのだと思います。
あなたの使命とは何ですか?
漫画で1人でも多くの人を元気づけることです。私は社会的にあまりスポットが当たることがない職業や立場の人を主人公にした作品を書いてきました。「ヘルプマン!」も同様で、介護をされる人だけでなく、介護をする側の人も総じて自己肯定感が低いことが制作の動機になりました。これまで様々な職業が漫画や映画、ドラマの主人公となり、それがきっかけで子どもたちの憧れの職業になっていく中で、介護については全く注目されていませんでした。
「ヘルプマン!」の中では利用者の身体拘束や虐待など介護の生々しい部分についても描写しました。それについては「いくら漫画でもあの様な過激な描写は如何なものか」「実際の虐待の様子はあんな生易しいものではない」など様々な声をもらいましたが、いずれにせよ介護やそこで頑張っている人について、社会に認識してもらうという役割は果たせたと思います。
最後にあなたのこれからの夢を聞かせてください。
今後も、様々な立場の人たちにスポットを当てた漫画を描き続けたいと考えています。働き方など社会が大きく変化する中で、これまで日が当たらなかった職業や人たちが注目される立場になることも増えて来るでしょう。そうした人たちへエールを送る作品を生み続けていければと思います。
また、地元についてもっと深掘りをし、その結果得られた新たな発見を発信していきたいと思います。私は高知県香美市に住んでいますが、高知県どころか香美市にもまだまだ知らない場所や物が沢山あります。せっかく漫画という術を持っているのですから、従来の地元PRや観光ガイドとは異なる私なりの感性・切り口でそれらの魅力を発信していければと思います。