—あなたのお仕事について具体的に教えてください。
現在は個人事業主として社会福祉法人 惠愛会様のエグゼクティブアドバイザーとして週の半分を務める傍ら、学校法人の介護福祉科の非常勤講師業務、医療法人の訪問歯科部の介護アドバイザーや委託を受けた人材育成業務、そして介護業界にとどまらず、一般企業も含めオーダーに応じた研修やセミナー講師としての活動を行っています。
惠愛会様では、介護現場の課題を見つけ、必要な課題解決に向けたプランを立て、さまざまな対策に基づき、私自身も加わり中心となって動いています。通常のコンサルタント業務とは違い、実際に介護現場と密接に関わることで、温度差のない状態でつながることができ、想定外の状況になっても迅速に適切な軌道修正をかけられるメリットがあります。さらに、施設の中核である主任クラスとのチームづくり、彼らのモチベーションアップや教育も担います。介護現場スタッフについては、課題解決に向けた研修や実践指導、同時進行でメンタルサポートも行いながら組織力を強めるチームケアの確立を目指す仕組みをつくっています。
また、専門職である医務や栄養課からの相談も受けアドバイスを行い、さまざまな部署と関わることで現状把握にもつながり、多職種連携のあり方を考えています。加えて、事業拡大に向けたアドバイスも含め、法人が必要する社会資源とのマッチング等も行い、より良い法人の環境設定に向け、総合的なアドバイスを行っています。
学校法人での講師業務は、専任教員として8年勤めた実積から、現在も非常勤講師を継続。介護業界で活躍する介護福祉士の養成をすべく、教員歴は非常勤も含めると15年になりました。その教育業の一環として研修業務も継続中です。オンラインよりも肌で感じる空気感、伝わる心の温度を感じていたいのでオフライン研修が向いている私です。
コロナ禍の影響で自粛しておりますが、また時期がくれば、積極的に再開していきたいと思います。
—この仕事を始めたきっかけを教えてください。
しっかりとした計画を立てて個人事業主としてスタートした…というわけではありません。実は、個人事業主として独立したきっかけは、必然に迫られてのことだったのです。
それまで信頼していた先輩から「起業するから一緒に仕事をしよう」と誘われ、その方と一緒に立ち上げの予定…が、直前でやはり起業しないと言われ…全てが白紙になりました。もうこうなったら「ひとりでやるしかない!」と個人事業主として走り出した次第です。
長年、勤めた学校法人での専任教員の職を辞してまで、先輩の起業へのサポートをしようと決めた気持ちは無惨にも打ち消され、あまりの裏切りに当時は悲しさでいっぱいになりました。今まで生粋のサラリーマン精神で生きてきた私が、個人事業主とはいえ「起業して代表を務めることができるのか?」など、自問自答しながらのスタートとなりました。
とはいえ、始まれば気持ちを切り替えて行動できました。亡き祖父母の介護を通して感じた家族心理も踏まえた介護業界への想い、学校法人の教員としての知識を生かした教育の実践、実際に私自身が介護現場の介護スタッフとしての経験によるスタッフのメンタルサポートなど、どれも全てに想いが詰まっています。介護という仕事に“誇り”と同時に“責任”を持つ人材育成を確立していくという想いは変わらず、私自身の心はぶれることなく起業に至りました。
そこからは学校法人の非常勤講師の仕事を任され、介護施設での研修やセミナーのご依頼をいただくようになりました。
きっかけは必然的、しかしがむしゃらな日々が結果的に多くの素敵なご縁につながり、自らの意志で物事を決められる、責任は全て自分ですが、それもまた心地よいと感じる環境を手に入れることができました。
—あなたの強みは何ですか?
私の強みとしては、主にこの2点。ひとつは“行動力”です。必然に迫られ準備もないまま、悲しみの感情でスタートした起業も、持ち前の行動力により順調に進みました。まずは学校法人の教員として過ごした8年間の安定から、自ら動き仕事につなげるかたちへの転換は努力なくしてありえません。
この気持ちを動かしてくれたのが、まさに行動力。まずはリサーチから始めました。介護業界を知るために交流会などへも参加、業界のつながりを知り、自分なりに分析。そして自分を信じ発信する行動力を持っていたからこそ、現在に至っているように感じます。
もうひとつは“コミュニケーション能力”。ありきたりな答えのようですが、この力が私の人脈を作り上げてくれています。特に意識して行動しているわけではないのですが、情報伝達として他者が何を望んでいるのかを感じ、そこも考え伝えることを意識しています。
また、共に同じ時間を過ごすならば、心地よく過ごしていただくために、どんな方にも誠実に接しています。サービス付き高齢者向け住宅の施設長を担ったときも、外部業者の方とも笑顔で挨拶し、関わっていただくことに感謝の気持ちを表していました。私にとってはごく当たり前のことでしたが、他の施設ではあまりないと聞いて少し驚きました。相手が笑顔になれるよう私ができることを全力で行ってきたので、それが自然とコミュニケーション能力として発揮され、強みとなったといえます。
—あなたの使命とは何ですか?
介護の専門性を追及し、介護業界のイメージアップをしていくことです。
できれば学生たちが介護業界に就職したいと思う、憧れる専門職の仕事にしたいと思っています。
世間で捉える介護業界へのイメージは、どちらかというとネガティブな部分ばかりがクローズアップされています。ご利用者の人生と向き合い、寄り添い介護する仕事は、本当はとても奥深く尊いものなのです。
実際に、仕事に対する誇りをもっている介護スタッフがどれくらいいるのか…人材不足のなかで日々、疲弊している方々も多い現状ゆえ、あまり誇りを持てないで仕事をしている方もいるかもしれません。
だからこそ、私は研修の際、必ず伝えます。「皆さんの仕事は奥深く、素晴らしい仕事なので誇りを持ってください」と。そして同時に「自分たちの仕事に誇りを持つということは、同時に責任を持つことでもあります」と加えます。
介護現場では、時に自分たちの価値観で介護の方向性が決まってしまうことがあります。利用者視点ではなく業務視点で動いていることもあり、それが利用者の不信につながることも少なくありません。もう少しご利用者の視点に立って“考える介護”“エビデンスのある介護”をしていくことも、この“責任”につながるでしょう。
ただ「先輩たちがそうしているから反論できない」など、心あるスタッフが離れる現状も多く見てきました。そういった方々のメンタルサポートと、業務視点のみで考える場合は、「介護保険を使って利用されるご利用者の方たちは対価を払ってサービスを受けられている、そこは契約の下に成り立つ業種である」ことも理解していただくよう伝えています。
介護スタッフの優しい手の触れ方ひとつで、混乱されていた認知症の方が穏やかになられたりする、そんな事例も話しながら、介護のプロフェッショナルを育てる使命感と発信をすることで、介護業界のイメージ改革はできると信じています。
イメージアップのひとつの動きとしては『介護医療系おとな女子会』を主宰。介護業界で輝き、活躍されている女性陣の集まりを企画しています。集まってくれる方々は、介護に対する想いも熱く、共に刺激を与え合っています。SNSでの発信により、介護業界の人々がキラキラしていることを感じてもらい、介護の世界を少しのぞいてみようかな?と興味を持ってもらうことも動きのひとつになればと企画しました。
—最後にあなたのこれからの夢を聞かせてください。
介護の奥深さを伝え、心ある人々で満たされる業界に発展させていくことが夢です。
私たち家族は、亡き祖父母を家で看取りたかったのですが、最期は生きてほしいという選択肢のなかで、救急搬送に至りましたが、後々、覚悟を決めて自宅で看取れば良かったと後悔が残りました。本当は最後まで一緒に暮らしたくてもそれができず、介護施設や医療機関に頼らざるを得ないこともあります。その時、最後に託した施設で寄り添ってもらえるスタッフが多ければ、家族も気持ちを切り替え、安心することができます。
家族心理も踏まえ、伝えていく。介護スタッフには、自分たちがなぜそこで仕事をしているのか、自分たちの言葉が、そのご利用者の安心につながることも感じてもらいたいです。笑顔がどれだけ大切なことなのか、大事にされていると感じてもらえるのか…。心ある介護を提供する必要を伝えていきます。
亡き祖父母の存在があり介護業界と出合った私。もっと関わるはずが、すぐに天国へ旅立ってしまいました。亡き祖父母にできなかった後悔、したかったこと、その想いを関わるご利用者に伝えるべく、現場にラウンドするときは、いつも笑顔で接しています。
私らしく、人材育成、“心”の部分も育成していきたいと思います。