—あなたのお仕事について具体的に教えてください。
福祉事業と経営コンサルタント業を行っています。
まず福祉事業に関しては、障がい者の就労支援。仕事のスキルを学び一般就労へとつなぐ訓練をする場所です。他にも障がい児デイサービス(発達障がいを持っていたり、医療ケアが必要な子どもたちに対する支援)を2施設、保育園を2園ほど運営しています。小規模の園ですが、子連れ出勤が普通にできるような会社でありたくて、運営し始めました。
そもそも障がい者の就労支援事業所を作った理由は、障がいを持ってる“ぐらいで”働けない社会なんて!と考えたことが発端。これまでの就労支援というと、清掃やパン・クッキーの製造など限られた就労状況を感じました。それらの仕事しか選べないのか、いやもっと出来ることはあるのではないかと思い、私たちは利用者の方に、その個性を活かしてどう仕事が提供できるかということをテーマにしています。できれば幅広い仕事の選択肢を提案したく、特にデザインやWEB関連などに注力。初めは技術が無かった方でも、今では弊社や他社のホームページやパンフレットなどの販促物を作っています。
もうひとつの軸が福祉事業の経営コンサルタント業。大きく分けて2つの形があります。ひとつは福祉事業などで起業を目指す方の支援です。もうひとつが事業経営したものの、うまくいかないという方への支援です。私たちは実際に福祉事業の経営をしており、かつ子ども、障がい、高齢介護など、それぞれの分野でのノウハウを備えております。ですから、事業開設前から事業開設後の運営面まで丁寧にサポートできることが特徴です。
事業を興していく上で、例えば専門の税理士や行政書士、社労士等の頼る場面もあるんでしょうが、弊社はワンストップで支援出来ることが強みです。例えば自己資金を元手に融資を受け、事業計画を作り、事業申請のお手伝い、マーケティングや集客、スタッフさんへの研修のなどを行い、事業を開設します。開設してお終まいではなく、運営がスムーズに進むよう、行政の指導や監査にも対応できるよう、枠組みを作っていく…という流れです。
クライアントさんには私達の支援が無くても、早期に自力で事業経営できるようになることを常に念頭に置いて、経営指導をさせていただいております。
事業経営したもののうまくいかないと悩んでおられる方の多くは集客に困っていたり、スタッフ不足などが課題。例えば人材紹介や利用者紹介を他社に頼りきるだけでなく、自社でそれらを解消出来るよう仕組みを作ります。根本的な課題解決を目指し、経営が長期的に継続することを大切にしています。
また個人としては、クラウドファンディングのアドバイスをしたり、コミュニティ運営についてアドバイスしたり、起業家向け経営塾も行い、志を共にする起業家を育てることにも力を入れています。
—この仕事を始めたきっかけを教えてください。
もともと大学時代は勉強を避けがちで、就職活動も頑張るタイプではありませんでした。最初の就職は飛び込み営業のきつい会社で続かなくて。そんな自分探しの旅の中、いろんな本を読むうちに見つけたのが社会福祉士/ソーシャルワーカー(生活相談員)という仕事。相談に乗って解決してお金がもらえる…当時の私は「めっちゃいいやん、コレ!」と(笑)。24〜25歳のときに社会福祉士の専門学校へ通い、卒業して福祉の世界へ飛び込んだことがきっかけです。
初めて就職した老人ホームは、開設して1年ぐらいのところでした。そこでは「ただ食べて寝る」ことが主体であるケアの在り方に衝撃を受けました。利用者の生活の質を高めたり、人生を豊かにしようというクオリティ・オブ・ライフ(Quality Of Life=QOL)からはかけ離れているように感じました。何とか現状を変えたいと思い、外出行事に力を入れたり、地域の子どもたちとの交流、施設にいながら買い物ができる仕組みを導入するなどして、少しずつ改善に取り組んでいきました。
たくさんの人の協力を得て、このような取り組みを進めていく中で、良い反響もいただき「やりがいのある最高の仕事!」「やっと一生できる仕事に出会えた!」そう感じていました。でもやればやるほど色んな課題が見えてくるわけです。
一つはいわゆるリスクに関すること。例えば高齢者を外に連れ出す際、施設側としてリスクは伴います。一方で利用者やご家族にとって豊かなことは、リスクを伴ったとしても外の空気を吸うこと。利用者の意思を尊重することで、上長への確認や説得にエネルギーを消耗しました。
もうひとつ、社会問題の壁にぶつかったことも大きなきっかけです。相談員という職務上、介護保険の相談を含め、様々な相談を請け負っていました。いろんなサービスや制度を提案して結びつける。それによって支援していく。そのような流れなんですね。その一方で、それだけでは解決できないことが数多くあったんです。例えば、相談者のお母様は認知症だが、お世話がし切れない状況だと。その理由は、相談者は暴力をふるう元夫から逃げるように引っ越しし、小さいお子さんもいるためバイトを掛け持ち。経済的にも苦しく身も心もヘトヘトで、しかもお子さんには発達障害があり、学校でいじめられて不登校で…と涙ながらに仰るんですね。介護保険制度を用いて相談者のお母さんの問題解決ができたとしても、じゃあ、この方の貧困問題はどうやったら解決できるんだろう、障がいを持っているお子さんがどうやったら社会にうまくなじみ、満たされた状態で日々を生活するには…といった全ての課題解決ができなかった。問題があまりに複合していて、無力感を感じずにはいられませんでした。
今、目の前にいるたった一人を救えない、負の環境に身を置かざるをえない人に手を差し伸べることが出来ない無力な自分がすごく嫌で。制度設計や政治が悪い、経営が悪い、地域の優しさが足りない…なんて、いろんな恨み言もありましたが、ただ文句を言ってるだけでは事態は好転しません。「じゃあ自分がやろう!」と。豊かじゃない社会や世界なんて、優しくないし面白くもない。何よりも自分に自分が誇れないんですよ。知ってて見て見ぬふりするのか…と。だから、課題に対して包括的に支援できるような男になりたい、それが起業への大きな原動力でした。
—あなたの強みは何ですか?
福祉はそれぞれの分野で奥が深く、例えば保育園での子どもへの向き合い方と、障がい児への向き合い方とは、どちらも異なる分野の話になります。さらに言うと、障がい者への向き合い方もまた異分野で、ましてや私は高齢福祉が専門でした。ですが、弊社は高齢者専門/保育専門と分野を絞った事業ではなく、包括的に担当しています。それはなぜか。専門職に関してはひとつの課題に対して特化すればいいかもしれませんが、支援が必要な方は、前述のように複合した問題を抱えていることが多いんです。そのためには、多様な分野で対応できるほうが良いでしょう。また弊社は、福祉専門の人間もいれば、海外での勤務経験がある人や他業種からの転職者も活躍していて、幅があり強みになっていると考えています。スタッフたちが後輩や友人を連れて来てくれたり、紹介したいと話してくれて、それもすごく嬉しいですね。
コンサルに関しては、実際に事業を運営しているので、実践的でわかりやすいという声をいただきます。事業開設したい方々からすると、私たちはお手本にならないといけない。襟を正して進まなければというプレッシャーと同時にやりがいがあります。加えてコンサルでの売上は、現場スタッフに還元することができますし。そこは手前味噌ですが、悪くない仕組みだと感じています。
また、弊社は副業OKで、スタッフには別会社で働いていたり、他の会社の社長を兼務する人間もいます。段々、働き方つまり「自分らしい生き方」を追求していく時代になっていくでしょう。大切なのは“誰とやりたいか”ですよね。会社はチームであることで得られる豊かさを提供しないといけませんし、逆に働く個人は、どう豊かな生き方をしたいかと追求し続けなければ、いきいきと生きていけない。そういうスタッフは、会社に多くのものを還元してくれます。誰もがワクワクする楽しい状態で働いてもらえるなら、社会全体が面白くなりますよね。それは社外の人でも社内の人でも、僕にとっては何も問題ではありません。
—あなたの使命とは何ですか?
インクルーシブ(Inclusive)=包む/取りこぼさない/誰も置き去りにしない社会ということを目指し、インクルージョンという屋号をつけました。この先も支援を必要とする人へ、たくさんの支援が届けることができるような組織であり、自分でありたいなと思っています。ですから経営理念は“誰もが笑って暮らせる社会”。これが私の使命ですね。
障がい者の就労支援を例に出すと、ひとつの工程ができない人がひとりいるとします。でもそれを10工程に分ければ、1工程目はできる、最終工程はこの人に…など、組み合わせて完成させることができるんですね。しかも、それがかえって効率がよくて。個性や特性に応じて仕事ができるよう分解することで、世の中の凸と凹がかみ合えばいいなと。できないことを探すのではなく、できることを探してどうするか? それが私たちのミッションですね。
そうすればきっと誰にも役割と居場所があると信じています。
誰かのために…という思いは、結局のところマスターベーションかもしれません。結局は自分の心が満たされますし。生まれてくる子どもは生まれる場所を選べませんが、たったそれだけの問題で胸が張り裂けそうなほどにひどい目に遭う子どもがいる。私には、それを目にすること、耳にすることは耐えられません。そういった問題を前にし、変えたいと動いているだけです。(どんな問題も他人ごとではなく)“我がごと”であるのが何故かクセなんです。
—最後にあなたのこれからの夢を聞かせてください。
人生の間際、お金があったとしても、そもそも何もなかった、いつゼロになっても胸を張れるような人生を終えたい、何にも執着せず生きていきたい…そんなことを考えています。
ですが、やっぱり「力」は必要と感じます。
なぜなら、世の中には不条理なルールしか知らずに生きている人がたくさんいるからです。例えば生活保護だと本当に必要な人に届かず、一方でズルして受給している人もいる。そんな優しくない世の中を変えるには、根元から変えないと。弊社がどれだけ大きくなっても、ルールそのものが変わらなければ辛い思いをしている人の解決にはなりません。
力とは誰かを守る力。そのために、たくさんの仲間とお金が必要であると考えています。そしていつかは制度設計に関わり、さらに多くの人を支援するところまでいきたいですね。不条理なルールを変えたいんです。
長期的な夢は、この国を代表するような福祉の事業者になることです。そしてワクワクと優しさが詰まったチームでありたい。
海外展開もしたいですね。例えばフィリピンやマレーシアなどのASEANはかつての日本のように、いずれ高齢化社会を迎えることになります。同じように福祉の問題が出てきますから、私たちが持つノウハウを提供できればと思っています。経営理念である“誰もが笑って暮らせる社会”は(世界中の)全員が対象なんですよ。海外で得た知識を日本に持ち込むこともできますしね。世界中を豊かにするために駆け回ることが理想です。
直近の中長期的な夢は、街づくりをすることです。これからは都会での仕事よりも住み慣れた地域や田舎での仕事が間違いなく注目されます。出社する必要がなくなるので。その時に地域の良さに改めて触れたり、それこそ町おこしがやりやすくなるであろう中、「みんなが好きな街」に面白いことを起こしていく仕掛けをつくりたいんです。過疎化の進む街に教育やエンタメ、そして足りない福祉を補い、街づくりをコンパクトに行いたいですね。
そして、みんなでビジネスがしたい…これも街づくりの一貫だと思っています。多くのビジネスは企業同士のコミュニケーションになりますが、エンドユーザーに届けるまでに当然、マージンが発生します。顔の見える信用し合える優しいつながりの中でビジネスを行なうと皆が幸せになれると思ううんです。これからは会社を超えたチームでのビジネスを、顔の見える人と信頼を築きながらやっていきたい。その良さは全てエンドユーザーへダイレクトに届けられるでしょう。経営塾を通し起業家支援をしている理由には、こういった側面もありますね。
福祉の現場で頑張っている方は、これから一層、人間力を磨くことが大切です。AIの時代はもう到来しています。おむつ交換はロボット任せになり、症状を入力すれば薬の処方箋を切ってくれる…そんな時代も近いのではないでしょうか。一方で、人間同士だからこそ得れることは存在し続けます。声かけや触れること、その人らしい雰囲気など、ロボットやAIでは体現できませんよね。同時に専門職としてのスキルを磨き続けることは当然必要ですが。
人間力を高めるにはどうすればいいか、それは“余白を持つこと”かと。色んな遊び、趣味、外気、芸術に触れたり、たくさんの人と関わること。自分磨きをしていると、所属する組織からもそれ以外の人からも必要とされますよね。
昨今SNSの発展で、嘘がわかるようになりましたね。言い換えると、そんな世の中でも信用されている人は、また信用に値する人がついてくる。自分らしくまっすぐ、優しく面白く生きていれば、昔と違って本物の人は明るみに出てくるようになった。良い時代ですね。
これからも私は、どんな生き方がしたくてどんな死に方をしたいのか…そういうことを問い立ててながら「誰もが笑って暮らせる社会を創る」ことに邁進していきたいです。
HP