あなたのお仕事について具体的に教えてください。
ジャーナリストです。2001年からNHKでニュースキャスターなどとして活動し、2013年に退局してフリーランスになりました。現在は、テレビでキャスター・コメンテーターなどを務めるほか、インターネット番組の制作、書籍の執筆、映画の制作なども行っています。
またNHK在職中の2012年に「ニュースをつくるのは『あなた』だ」を掲げた一般市民がニュース送り手となる新しいタイプのメディア「8bitNews」を運営するNPO法人を立ち上げています。これに加えて良いことをしている人たちを発信力で支援するニュース・情報サイト「Garden」の運営、今年4月に立ち上げた、まだ言葉になっていない世の中の良い想いや活動を、映像を使って可視化する「わたしをことばにする研究所」を通じて、これまでにない情報発信のあり方を追求しています。
8bitNews https://8bitnews.org/
GARDEN Journalism https://gardenjournalism.com/
わたしをことばにする研究所 https://watakotopress.com/
この仕事を始めたきっかけを教えてください。
大学時代はドイツ文学を専攻し、ドイツ留学もしました。その経験もあり卒業論文のテーマを「ナチスドイツのプロパガンダと日本のプロパガンダの比較」にしました。ドイツでは「独裁者ヒトラーを生み出したのは自分たちだ」という反省があり、戦後は、再びヒトラーを生み出さないようにメディアを可視化し、国民がそれをチェックできる仕組みづくりが行われました。それに対して日本では、戦争を支持・賛美してきたメディアが何の反省もせず、そのまま戦後も大手メディアとして君臨し続けて来ました。このことに対する不満・不信感を感じていました。
また、私の学生時代には、地下鉄サリン事件や阪神淡路大震災が発生したこともあり社会的な不安を感じる人が大勢いました。それに加えて就職氷河期でもあり、私はメディアを含めた世の中に対して不平不満しかありませんでした。こうした中で「自分がメディアの中に入ることで、その在り方を大きく変えることができるのではないか」と考えました。NHKの採用試験でも、そのことを強く訴えました。
NHKに入局して間もなく地上波デジタル放送が始まり、視聴者との相互通信が可能になるなど、メディアが大きく変わるチャンスが到来しました。私自身も当時普及し始めたSNSの要素を取り入れた双方向ニュース番組の立ち上げに携わるなどしましたが、それでも自分が理想とするメディアを作り上げることはできませんでした。そこで2012年に8bitNewsを立ち上げました。
あなたの強みは何ですか?
「固定観念に囚われず」「好奇心を持ち」「自由に」取材ができるということです。例えば私は、北朝鮮によく取材で足を運んでいます。しかし日本のメディアの中には、「北朝鮮のプロパガンダに会社として加担することになる」などの理由で、北朝鮮に記者などを取材にいかせないという判断をしているところもあります。それに対し、私は何の制約も持たずに、多くの人に会い、その人たちの声を送り届けることができます。
また、大手メディアの場合には、「それにニュースバリューがあるか」を取材するかどうかの判断材料にせざるを得ません。私の場合はニュースバリューの有無を事前に決めずに取材できるという点も大きな強みだと思っています。
あなたの使命とは何ですか?
「小さな主語」で語ることの重要さや必要性を1人でも多くの人に気づいてもらい、実践してもらうことです。
報道の場面では「日本は…」「我々は…」と大きな主語で語るケースが多くみられます。また、私たちの日頃の会話の中でも「政治家は…」「公務員は…」「オジサンは…」などと、ひとくくりにした主語を使いがちです。こうした表現は、便利で楽ですが、受け取る側に特定のイメージや固定概念を与えてしまいがちです、その結果として人々を分断させてしまう危険性があります。例えば東日本大震災の時は、一部の被災者の様子について「被災者は…」と紹介したところ「全ての被災者がそうした状況ではない」と被災者自身から反発の声があがる、といったこともありました。
また、逆に、大きな主語は為政者などが多くの民衆を煽る際のスローガンなどにも使われることがあります。こうした「大きな主語」を自分たちの都合のいいように使っていないかを、一人ひとりが気にかける社会が理想的と考えています。
「小さな主語」というと「私」が真っ先に思いつきますが、「私」が全てではありません。「○○さん」など数多くの「小さな主語」があります。このバリエーションが多い人ほど、世の中のことを良く理解していると言えるのではないでしょうか。
あなたのこれからの夢を聞かせてください。
8bitNewsなどの活動を通じて「当事者意識を持ち」「『私』は何ができるのか」を考えて実行できる人を増やすことです。大手メディアは不特定多数の人に一度に伝えなければならない上に、時間的な制約もあり、どうしても「~であるべき」「~でなくてはならない」という結論まで用意しなくてはなりません。それに対して、私を含めて市民一人ひとりが伝え手となるメディアでは、時間の制約もありませんし、結論を用意する必要もありません。多様な価値観が求められる中での理想的なメディアのあり方であると考えています。
最後に、夢や目標に向かって新たな一歩を踏み出そうとしている方へ、メッセージをお願いします。
「あなたが思っていることや、決断したことは、とても価値があること」という言葉を贈りたいと思います。「どうせ私なんて…」「私一人が行動したところで何も変わらないだろう」と、口をつぐんだり、何かに背を向けていたりしたところで何も変わりません。どのような考え方、行動であっても、それには必ず価値があり、物事を変える力があります。