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お悩み解決コラム

利用者からの暴力・暴言にはどう訴えるべき?すぐできるハラスメント対応

2024/03/09

最終更新日:2024/04/28

「暴力にはどう対処したらいいの?」「我慢するばかりで苦しい…」「上司がまともに受け止めてくれない!」など、介護士として働きながら、利用者からの暴力・ハラスメントに苦しんでいる方もいるのではないでしょうか。

暴力や暴言などを放置していると、事態が深刻化していきます。

この記事では「利用者からの暴力を訴えることの大切さ」について、有料老人ホームで役職者経験のある現役介護福祉士が解説しています。

最後まで読めば、利用者からの暴言・暴力・ハラスメントへの対策方法が分かります。被害にあったら素早く行動することが大切です。

利用者からの暴言・暴力・セクハラなどに対する責任は介護事業者にある

事業者は利用契約に基づき心身の安全を確保しながら利用者に介護サービスを提供する義務を負います。

同じく、職員に対しても安全で健康的に働ける環境を提供する義務を負うのです。

適切な対策を取らない事業者は、安全配慮義務違反となります。

介護現場における被害の実態

実際の介護現場ではどんな暴力やハラスメントが横行しているのか、実態をお伝えします。

4~7割が「ハラスメントを受けた経験あり」

厚生労働省が公表している資料によると、施設等に勤務する介護職員の内、利用者からのハラスメント被害は実に4〜7割です。

割合は施設の種類によって異なり、下記の通りです。

介護老人福祉施設71%
認知症対応型通所介護64%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護61%
特定施設入居者生活介護60%

出典:介護現場におけるハラスメント対策マニュアル 令和4(2022)年3月改訂

ハラスメント被害に合っている職員は6割以上となっており、事態の深刻さがうかがえます。

また、利用者の家族からハラスメントを受けることもあり、職員の1〜3割が経験しているというデータもあります。

介護職が誇りをもって働くには、ハラスメント対策を迅速に行うことが急務なのです。

暴力やハラスメントは3種類

暴力やハラスメントはさまざまな場面で起こります。

具体的に解説します。

身体的暴力

・殴る

・蹴る

・つねる

・引っ掻く

など、利用者が職員に身体的な危害を加えることを言います。

杖やコップなどを使って暴行を加えようとする行為なども含まれます。

精神的暴力

・罵声を浴びせる

・威圧的な態度を見せる

・非常識な要求を繰り返す

など、言動や態度によって職員に嫌な思いをさせたり、精神的に傷つけたりする行為のことです。

言葉による精神的暴力が続くと、中には精神障害を発症する人もいます。

セクシャルハラスメント

必要性がないのに、

・従業員の手や腕に触れる

・抱きしめる

・性に関する話をする

・いかがわしい写真を見せつける

などをすることです。

相手が望んでいないのに、誘ったり嫌がらせをしたりすることはセクハラになります。

入居系は身体的・訪問系は精神的が多い

下図は施設形態別の暴力・ハラスメントの内容です。

出典:介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書

介護老人福祉施設や特定施設入居者生活介護などの入居系施設では、身体的暴力が多くなっています。

一方、訪問介護・看護などの訪問系では、精神的暴力が多いです。

利用者の介護度や周囲の環境によって、暴力・ハラスメントの内容が変わることもあります。

ケガや病気などのダメージを負う職員もいる

利用者からの暴力やハラスメントにより、怪我をしたりトラウマや精神疾患になったりする職員もいます。

約1〜2割の職員にケガや病気になった事実が有り、2〜4割は暴力・ハラスメントが原因で辞めたいと考えることもあったようです。

例えば、介助方法について細かすぎる要望があり、無理な介助をして腰痛を発症し、治らなくなるという人もいます。

利用者から暴力や罵声などの被害を受けても「自分のスキルがないから…」と自らを責めて

しまう人もいますが、すべて職員のせいにするのは間違っています。

早急に対処して職員のモチベーションを維持し、離職防止につなげていかなければなりません。

【3選】暴力やハラスメントが起こる原因・理由

暴力・ハラスメントの起こる原因が分かれば対策が見えてきます。

考えられる原因・理由を3つ紹介します。

認知症によるもの

認知症を患うと、感情をコントロールできないことがあります。

そのため、嫌なことがあったとき、ストレートに表現してしまうのです。

例えば、入浴は清潔を保つための大切な行為ですが、お風呂が嫌だという利用者もいます。気持ちを察することができなければ「無理矢理入れようとしている」と利用者が判断し、暴力を振るうこともあるのです。

また、幻覚や幻視などの症状が出て錯乱している人は、自分を守るために暴力を振るう可能性もあります。

心身の不調の表れ

高齢になると、体の至るところに不調や不具合が出てくるものです。

職員が不調に気づかなければ利用者は不穏になり、ちょっとしたことで暴力に発展することもあります。

・便秘

・痛み

・気分不良

などのストレスが続くと、誰でも大きな不快感を覚えるものです。

利用者の心身の不調を知り、ケアが行き届いているかアンテナを張る必要があります。

意識が低い

現在の高齢者が若かりし時代は、戦争を経験していたり、男尊女卑という考え方が根強く残っていたりします。

ハラスメントという認識がないのです。

中にはお客様意識が強く「お金を払っているから職員が我慢するのは当たり前」と感じている人もいます。

しかし、今の世の中、職員が一方的に我慢する時代ではありません。

許されること許されないことを明確に利用者に伝え、暴力・ハラスメントに対する意識を高く持ってもらうことも必要です。

問題行為に対して施設が取るべき防止策

事前に下記のようなポイントをつかんだ決め事をしておけば、素早くトラブルに対処できます。

利用契約の条項確認

「サービス提供中に、利用者が他の利用者や職員へ生命・身体・健康及び財産などに重大な影響を及ぼした場合、すぐに契約を解除できる」といった内容や、損害賠償請求についての条項を盛り込みます。

入居時のオリエンテーションなど、家族と利用者が集まる機会を利用して、説明することが重要です。

緊急時の共有・警告

防犯グッズを携帯させる、さまざまな事案を考慮した緊急時の対応マニュアル作成などをする必要があります。

貼り紙などで利用者・家族にアピール

暴言・暴力・ハラスメントを、徹底して容認しないことを示すポスターなどを掲示することも有効です。

【短期的・長期的】暴力・ハラスメントへの対処法

ここからはすぐに実践するべき対処法について解説します。

短期的・長期的に分けて対策をお伝えします。

短期的な対処法

まずはすぐにできる対策を紹介します。

落ち着いて冷静に対応する

暴力・ハラスメントを行う利用者には、ひるむことなく落ち着いて冷静に対処することが求められます。

大声で怒鳴ったり、悲鳴を上げたりすると相手を刺激してしまい逆効果です。

まずは、自分と相手が冷静になることを心がけてください。

距離を置く

訪問介護などでは、1人での対応を求められることがあります。

1人の利用者に複数で訪問すると人件費がかかるので仕方ありません。

どうしても1人で対応しないといけないときは、暴力を振るわれても届かない程度に距離をとることが大切です。

例えば車椅子を利用する人なら、安全を確保しつつ、利用者が落ち着くまで離れても問題ありません。

介護事故が起こらないように気をつけながらも、自分の身は自分で守る意識を持ってください。

暴力の傾向を探る

暴力・ハラスメントを行う利用者本人の状態・傾向を分析してください。

人によって暴力の傾向が違うので、特徴を知ればある程度予防できるのです。

例えば、介助をするときに職員をいつも蹴ろうとする利用者の場合、正面に立たないようにする対策が考えられます。

必ず声掛けして、了承を得てから関わることも有効です。

対策しても、まったく効果が出ないときもありますが、無駄と決めつけず、できることをやるという意識で取り組むようにしてください。

しっかり意思表示をする

介護中に暴力やハラスメントと思われる行為があった場合は「やめてください」と意思表示することが大切です。

基本的なことですが、嫌なものは嫌と伝えなければ相手に伝わらないです。

高齢者だろうと、認知症があろうと、まずはしっかりと自分の意思表示をしてください。

学校・職場での「いじめ」にも言えることですが、被害者が強い意思をあらわさないと、ヒートアップしていくものです。

相手に自分の意思を伝えることから、暴力・ハラスメント対策は始まります。

複数人で対応する

利用者から嫌なことをされても、排泄介助や食事の提供などを中止するわけにはいきません。

問題のある利用者に接するときは、2人以上で対応するようにしてください。

メリットは

・被害を受けにくくなる

・複数の人間で事実確認ができる

・冷静に対応できる

・責任や負担が分散される

などです。

ケースバイケースですが、1人で対応しないことが大切だと理解してください。

身体拘束する

利用者が興奮してさらに加害行為をする、他の利用者にも危害を加えようとするときは、身体拘束も視野に入れてください。

身体拘束は「緊急やむを得ない場合に該当する3要件」をすべて満たす場合に実施できます。

3要件とは

・切迫性

・非代替性

・一時性

出典:厚生労働省 身体拘束に対する考え方

です。

あくまでも加害者が加害行為を止めるための緊急的で一時的な手段だと認識してください。

警察に通報する

暴力やハラスメントが緊急を要する場合は、警察を呼ぶという手段もあります。

何よりも身の安全を確保することが大切だからです。

例えば、利用者が凶器でいかくしたり、危害を加えようとしている場合などが考えられます。

事例としては2018年に、認知症の利用者が職員をハサミで刺すという事件が起こりました。

何かが起こってからでは遅いのです。

必要なときはすぐに警察を呼び、状況によっては被害届を検討してください。

長期的な対処法

上司や事業所全体で対策を講じる

暴力やハラスメントに対して1人で対策するのは困難ですので、上司や事業所全体で対策を講じるようにしてください。

1人で戦うと現状は変わらず「我慢」しながら業務を続けることになります。

上司や管理者・施設長などを含めて全体で問題を把握し、取り組む姿勢が大切です。

労災を申請する

暴力やハラスメントにより、肉体的・精神的に病んでしまった場合は、労災申請も1つの手段です。

ただし、労災が認定されるためには、医師による診断書が必要となります。

労災認定は事故だけが対象ではないので、本当につらいときには利用をオススメします。

リフレッシュは大切です。

出典:アトム法律事務所 介護施設等における利用者からの暴力は労災に当たるのか徹底解説

1人で悩まず相談する

暴力・ハラスメントを受けたら絶対に1人で抱え込んではいけません。

職場の同僚や上司に相談してください。

公にすることで、改善方法が見えてくる可能性があるからです。

あなたのケアが問題かもしれませんし、利用者の問題かもしれませんが、公にすれば解決しやすくなるのです。

人に吐き出すことで、精神的にも楽になるので必ず相談してください。

記録を詳細に残す

暴力・ハラスメントが発生した際は、報告と併せて、必ずカルテへ詳細な記録を残すようにしてください。

証拠になるし、退居する根拠にもなるからです。

事態が深刻なほど、日々の記録が重要になるので「記録は絶対に残すもの」と覚えていてください。


なお「介護現場におけるハラスメントに関する職員研修」という動画を、厚生労働省が作成していますので、参考にどうぞ。


自治体・行政の相談窓口や法律の専門家に頼る

暴力・ハラスメントが起こったら、まずは上司へ相談してください。

すぐに職員間で情報共有し、改善を図ることが大切です。

しかし、施設や上司によっては真剣に受け取ってくれないかもしれませんし、様子見の指示で我慢するだけの可能性もあります。

動いてくれないときは、公的機関における相談窓口がオススメです。

各都道府県労働局、労働基準監督署などに設置されている「総合労働相談コーナー」では、職場で起こったハラスメントやいじめ、嫌がらせなど、労働問題に関するあらゆるトラブルの相談に乗ってくれます。

相談は無料で、相談者のプライバシーにも配慮してくれます。

他にも、東京都なら「社会福祉法人 東京都社会福祉協議会東京都福祉人材センター」が運営している「介護現場における利用者やご家族等からのハラスメントのお悩み相談」もあるので、住んでいる自治体を調べてください。

また、法律の無料相談ができる総合的な窓口として「法テラス」があります。

弁護士事務所の紹介や、さまざまな法律相談にのってくれるサービスです。

法的知識がない一般の人間を対象にアドバイスしているので、安心して利用できます。

転職して暴力から離れる選択肢もある

上司や自治体などに相談しても、事態の改善が見込めないことがあります。

すると、利用者の暴力やハラスメントに対して、ひたすら我慢するしかない状況が続くのです。

しかし、我慢は続きませんので、心身ともに追い込まれていくのは時間の問題と言えます。

選択肢の1つとして「転職」という選択もあることを知るべきです。

暴力やハラスメントからは「離れる」ことが最善の場合もあります。

改善が見込めないときは、心身が追い込まれる前に転職を検討してください。

まとめ

本記事では利用者からの暴力・ハラスメントに対する対処について解説しました。

介護従事者の4割〜7割は被害を受けたことがあるというデータがあります。

暴力・ハラスメントを受けたら、すぐに同僚や上司に被害を訴えることが大切です。

認知症によるもの、ハラスメントという意識が低いなど、原因はさまざまですが我慢せずに打ち明けてください。

上司などが対策を打ってくれない場合は、自治体が運営する機関に相談し、改善を図りましょう。

上司や自治体に相談しても事態の改善が見込めないときは、転職を視野に入れることも必要です。

心身が追い込まれる前に、ホワイトな職場で働くことをおすすめします。

この記事の執筆者

あべ
介護福祉士・レクリエーション介護士2級・認知症ケア指導管理士

介護付き有料老人ホームにて介護歴10年以上。保有資格は介護福祉士・レクリエーション介護士2級・認知症ケア指導管理士。介護リーダー歴も5年以上あり。高齢者施設に勤務しながらWebライター・ブロガーとして活動中。