――あなたのお仕事について具体的に教えてください。
福岡県うきは市で「うきはの宝」という75歳以上の高齢者ばかりが働く会社を経営しています。業務委託も含めて全国で60名ほどが就労しています。最高齢は93歳、ほとんどが女性です。認知症の人も要介護の人もいます。主な業務内容は、店員が全員高齢女性の喫茶店「ばあちゃん喫茶」の運営、食品の製造販売などです。「ばあちゃん喫茶」は、福岡県内で3店舗を運営していますが、最近はフランチャイズによる展開も行っています。特に、介護事業者が利用者や入居者の生きがい創出、ADLの改善などを目的に加盟するケースが増えています。このほか、登場するのも購読するのも高齢女性という「ばあちゃん新聞」を発行しています。
また、高齢者の就労や地域資源を活かした商品開発などをテーマにした講演やセミナーの講師、コンサルタントとしても活動しています。これまでの私の取り組みを記した初の著書「ばあちゃんビジネス」が小学館より出版されました。
故郷と希望を与えてくれた方々に恩返しをしたい
――この仕事を始めたきっかけを教えてください。
元々はデザイナーとして「社会や地域の課題をデザインで解決する」ことを目指して活動してきました。私が生まれ育ったうきは市は典型的な地方の小さな市で、人口が年々減少しています。高齢化率は平均で40%、私の地元の地区では60%にも達しています。こうした故郷を何とか活性化したいと考え、2019年にうきはの宝を設立しました。
また、私は20代の頃に大怪我をして4年間入院をしていました。この間、働くことも遊びに行くこともできず、精神的に非常に追い詰められて自暴自棄になっていました。そうしたすさんだ自分を支えてくれ、生きる希望を与えてくれたのが、同じ病院に入院していた高齢女性たちとの毎日の何気ない交流でした。そのときの恩返しをしたいという思いもありました。
高齢者の本音を事業に変える力
――あなたの強みは何ですか?
まず、高齢者に就労や社会参画の機会を創出するといった取り組みは全国各地でさまざまな形で行われています。しかし、そのほとんどが高齢者はボランティアかそれに近い非常に安い報酬で活動しています。つまり、運営する側が活動資金を持ち出したり、寄付など外部の支援に頼ったりしなくてはならず、取り組みの継続性という点で課題がありました。また、このことから手掛けることができる人や組織も限られていました。
それに対して私は、株式会社という営利法人で継続できる仕組みを構築できました。「私だからできる」ではなく「誰でもできる」ようにすることで、同じような取り組みを全国にスピーディーに広げることができます。
また「ばあちゃん新聞」の発行などを通じて、これまでに全国約1万人の高齢女性と接してきました。新聞に登場するのは特別な経歴やスキルを持った人ばかりではありません。そのあたりを歩いている普通の高齢女性に私が声をかけるなどしてスカウトしています。ごく一般的な高齢女性が感じている悩み、興味があることなどについて生の声を通じて誰よりも理解していることで、高齢者の参加意欲を引き出し、高齢者が無理なく働ける仕組みを作り出すことができました。また初対面の高齢者からでも悩みや夢を引き出すことができるコミュニケーション力の高さも私の大きな強みだと思っています。
「多世代協働」が当たり前の社会を作ること
――あなたの使命とは何ですか?
10年ほど前から若い世代が「老害」という言葉を頻繁に使うようになるなど、近年は世代間の対立が強くなる傾向に危機感を覚えています。それを解消して「多世代協働」が当たり前の社会を作ることです。高齢者の中で「将来は介護施設に入ることが夢」という人はまずいません。「少しでも長く働きたい」「社会の役に立ちたい」と考えている人たちが、経験や特技を活かして輝ける社会にしていく必要があります。そのためには、高齢者を過剰に保護したり、過剰にサービスを提供したりせず、他の人たちと同じ社会の一員として扱うという考え方を根付かせていくことも大切です。
認知症の人をいかに社会の中に組み込んで活躍してもらうかを考えなくてはいけない
――あなたのこれからの夢を聞かせてください。
現在、厚生労働省の「生涯現役地域づくり普及促進事業 有識者委員会」の委員を務めています。個人的な考えとしては「高齢者専門の雇用制度」が国の公的な仕組みとしてあった方が良いと強く想っています。私自身は政治家になる気はありませんので、現在と同様に、あくまでも一民間人の立場としてこれに関わりたいと考えています。
もう一つは「認知症」という言葉の概念を社会から無くすことです。痴呆症から認知症へと言葉自体は変わりましたが、まだネガティブなイメージが残っています。近い将来、日本人の1割は認知症か軽度認知障害になると言われています。認知症が珍しくなくなる中で、医療や介護の現場で専門職どうしがその言葉を使うのはともかく、一般社会の中で認知症を「病気」とみなし、その病名を使って人にレッテルを張ることに大きな違和感を覚えます。むしろ日本の人口、特に生産年齢人口が減少していく中では、認知症の人をいかに社会の中に組み込んで活躍してもらうかを考えなくてはいけないと強く感じています。
思いや気持ちがあるのなら迷わず自分を信じて動いて
――最後に、夢や目標に向かって新たな一歩を踏み出そうとしている方へ、メッセージをお願いします。
私が今の会社を立ち上げるときに、周囲の99.9%の人が「そんなものは必要ない」「どうせうまくいかない」と批判的でした。そうした批判を評価に変えることができたのは「実際に行動し」「成果を出した」からです。自身の行動無くして周囲の評価が変わることはありません。自分が確信・信念を持って起こした行動であれば、それを通じてどんなものでも変えることができます。思いや気持ちがあるのなら、迷わず自分を信じて動いてみましょう。







