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西田直生志
近畿大学医学部 教授

肝臓がんの予防・治療法の研究に25年。遺伝子解析とAI活用した個別化治療の実現を目指して

—あなたのお仕事について具体的に教えてください。

医師になって35年になります。25年ほど前から肝臓がんを専門に扱うようになりました。現在は消化器内科の医師として、肝臓がんの診断や治療に携わっています。一口に肝臓がんといっても、いろいろな性質のがんがありますが、どのようなタイプの肝臓がんにどのような薬が効くのかを遺伝子の面から解析し、また、消化器系がんの発生予防などといった研究を合わせて行っています。

加えて、3年程前からはがん診断の現場で活用できる人工知能(AI)の研究も進めています。

—この仕事を始めたきっかけを教えてください。

大きく2つあります。まず身内に医師がいたことで、医学を身近に感じていました。そして学生時代は理科の授業、中でも生物が好きだったことから、これを活かせる仕事として医師がいいだろうと考えました。

私が医師になった頃は、肝臓がんにかかる方が非常に多かった一方で、なかなか効果的な治療法がなく、「肝臓がんは予後が極めて悪いがん」といったイメージを持たれていました。大学院に入り、何か研究を始めようと考えたときに、この病気の治療法を研究することは社会的な使命も大きいのではないかと判断し、テーマとして選択しました。

当初は、研究は4年程度で止めるつもりでいたのですが、研究をしていると、遺伝子の構造変化など、それまで本や論文などで読んで知っていた事象が、実際に自分の目の前で結果として出てくることが非常に新鮮で楽しく感じました。そして研究を続け、成果が出れば、またそこから研究すべきテーマが生まれ、新たな発見に繋がっていきました。そうしたことが面白く、結果的に今日まで研究を続けています。医療の研究は日進月歩で10年前には夢物語としか考えられていなかったことが今は当たり前の知識・技術になっています。そうしたダイナミックな流れの中に身を置いていることを非常に面白く感じています。

—あなたの強みは何ですか?

あまり自覚はしていないのですが、他人からは「マイペースな性格」と言われることがあります。確かに、自分が面白いと感じたことに関しては時間を忘れて没頭することがあります。「気が付いたら夜が明けていた」ということもよくありました。中学の頃は屋根に上がって星をみていたのですが、星図に載っている位置と全く同じ場所に星があるのが面白く、明け方近くになったりしていました。屋根に登るのが危ないからと、母が望遠鏡を買ってくれましたね。

また、これも自覚はしていなかったのですが、中学時代に国語の先生から「長い文章を箇条書きにして、整理する能力に長けている」と言われたことがあります。多くの情報を整理して分析するのは、さほど苦にはなりませんので、研究する面では助かっていると思っています。

—あなたの使命とは何ですか?

使命というには大袈裟かもしれませんが、医師として、医療を通じて人々が幸せになり、世の中がよくなることに少しでも寄与できればと思っています。幸せの定義とは人それぞれ違う部分もあるかと思いますが「病気の悩みから解放される」ことは幸せであることの基本中の基本と言えるのでではないでしょうか。健康であれば、その分自分のために使える時間を多く捻出できます。そして、その時間は「もっと幸せになるための時間を探し、作る」ために使うことができるという好循環が生まれます。

また、AIの研究を行っている話をしましたが、AIが発達すれば、これまで人の手で行ってきたことをAIに任せることができるケースがずっと増えていくでしょう。その分だけ人は「自分の幸せを追求する時間」を持つことが可能となります。

医療の現場で言えば、「この人にはどのような治療をすれば上手く治療できるか」を早い段階で判断するのに、AIによる情報処理が大いに役立つでしょう。これは、検査をしたり様々な治療法を試したりする時間が短くなる分、患者さんは自分のための時間をこれまでよりも長く持つことが可能になります。

—最後にあなたのこれからの夢を聞かせてください。

現在、肝臓がんの治療に関しては、治療法や薬の種類などある程度は検査で選択することが可能になっています。しかし、あくまでも「こういう状態の患者さんにはこう言った治療法を使う」など「状態に応じた」「ある程度」の選択に留まっています。今後は高齢化がさらに進み、がんにかかる方も増えてくるでしょう。そうした社会構造の変化に合わせ、本当に患者さん一人ひとりにあったきめ細やかな個別化医療を提供できる体制を構築していくことです。

当然そこには「治療に際しては多少の苦痛を伴ってもいいので早く・確実にして欲しい」という方もいれば「長い時間がかかってもいいので、穏やかに治療していきたい」方もいます。病気や自分の命にどう向き合うかといった患者さん本人の意思が最重要視されなくてはなりません。一方、早く・確実な治療にはどういう検査が参考になるのか、穏やかに治療で効果がでる人は、どういう身体所見なのか、現在はわからないことが多いですが、膨大な診療情報や治療効果の解析はAIが得意とする部分です。従来の診療情報に加え、患者さんから聞き取った内容を数値化し、AIを使って治療法を分析・選択していくことが、そう遠くない将来には可能になるでしょう。AIは、個別化医療に重要な役割を果たすようになると思います。


一方、そうした体制づくりが難しい一因は、一人ひとりの「幸せを構成する要素・幸せの判断基準」が異なっているからです。「どのような状態になるのが幸せなのか」はあくまで患者さん本人の考えによります。患者さんも「自分の幸せの優先順位は何か」という点について、しっかり考えてきた人は多くないかもしれませんが、きめ細やかな個別化医療とは、こうした部分も加味した診療体系だと思います。この点も頭に置いて、これからの時代にフィットした個別化治療の実現に向け、研究を続けていきたいと思います。

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