三好さんのお仕事について具体的に教えてください。
フリーランスの介護講師として40年近く活動しています。介護講師としては先駆的な存在ではないかと自負しています。また、1986年から全国で「生活リハビリ講座」を、1988年からは、その実践講座として「オムツ外し学会」を主宰しています。いずれも新型コロナウイルス感染症の影響で、ここ数年は回数や規模の縮小を余儀なくされましたが、2023年以降は本格的に再開していきたいと考えています。
この仕事を始めたきっかけを教えてください。
若い頃は仕事を転々としていていました。24歳のときに、実に12番目の職場として特別養護老人ホームに就職しました。特に何も考えず、たまたま扉を叩いたのですが、初めて「長く続けられそうな仕事だ」と直感しました。確かに身体的な負担は大きい仕事ですが、延々と単純作業をするわけではありません。また、セールスの仕事では「相手に多少嘘をついてでも売る」という行為に罪悪感を覚えましたが、介護はそれもありません。理学療法士の資格を取るために3年間学校に通った後に復職するなどして、35歳までそこで勤務しました。
ちょうど、そのころ高齢者へのリハビリテーション提供の必要性が社会的に注目されるようになっていました。しかし、リハビリの主役であった病院側には高齢者に関するノウハウがありません。そうした中で、病院側から相談・協力依頼などの声がかかるようになりました。私自身も「病院のリハビリではなく『生活リハビリ』が高齢者には必要だ」と考えており、それを広めたいという思いから、独立をしました。
三好さんの強みは何ですか?
今でこそ、介護やリハビリに関するノウハウ・マニュアル本は多数ありますが、私が独立した当初はほとんどなく、「介護をする意味とは何か」から自分で考えて言語化していく必要がありました。「関係障害」など、それまでには無かった概念や言葉を作り出してきました。この経験が非常に大きかったと思います。
どれだけマニュアルを整備しても、介護の現場ではそれでは対応できないケースが必ず発生します。同じ手法を使って100人に問題なく対応できても、101人目でうまくいかないことがあるのが介護です。マニュアルに頼っているだけではなく、いかに臨機応変に動けるかが介護では重要です。そのためには「試行錯誤」をしなくてはなりません。
試行錯誤は決してマイナスなことではなく、よい結果を生み出すために必要な過程です。私は、誰よりもその試行錯誤を繰り返してきたことが強みではないかと思っています。
三好さんの使命とは何ですか?
介護保険制度は「介護の社会化」を目的に創設されました。しかし、私は「社会の介護化」が必要だと考えています。高齢者や病気、障がいなどで生活に際してサポートが必要な人がこれだけ増えているのにも関わらず、世の中は相変わらず生産性・効率性が第一になっていて、彼らは「それを邪魔する者」という意識があります。
例えば、最近「エスカレーターを歩く人のために片側を空けておくことの是非」が議論になっています。これも急ぐ人の勝手な理屈で「身体に麻痺がある人を横に並んで介助する」という当たり前の行為を「エスカレーターをふさいで迷惑だ」と考えたことが原因の一つです。こうした考えは、最近の少子化の要因にもなっているのではないでしょうか。「子どもを産み・育てる」ことを、自身の経済面への影響などといった効率性だけで判断しているような気がします
「介護をする姿、される姿が、社会のごく当たり前の風景になる」そういう社会を作っていくことが使命と考えています。
三好さんのこれからの夢を聞かせてください。
特に若い世代に、介護の仕事で働く魅力を感じてもらうことです。「介護はマニュアルでは対応できない部分がある」という話しをしましたが、そこをカバーするのは介護職の人間性です。世の中のさまざまな仕事の中で、個人の人間性がここまで活かされるのはアーティストぐらいでしょう。アーティストに憧れる若者が大勢いるように、介護職に憧れる若者を増やしていきます。
また、現在介護現場で働いている人たちは、「被害者意識が強い」「自己肯定感が低い」と感じることが多々あります。世間からの批判を恐れて、利用者の満足につながる独創性のある取り組みができていないケースも見受けられます。そうした介護職が自信と誇りを持てる手伝いをできればと思います。
「介護には生産性がない」という意見があります。しかし、介護は利用者の「生きていこうという気持ち=生の肯定感」を生み出す生産性の高い仕事です。このことを多くの人に実感してもらいたいと考えています。
最後に、夢や目標に向かって新たな一歩を踏み出そうとしている方へ、メッセージをお願いします。
マニュアルが通用しない介護の仕事で必要なのは、さまざな利用者・場面に応じた最適な対応ができる応用力です。それは人生経験の豊富さと直結しています。しかし、年齢の高い人が有利というわけではありません。若い人でも、本を読んだり、映画を見たり、友人を持ったりすることで、人生について沢山のことを学べます。漫画でも構いません。ぜひ多くの学びの機会を持ってください。
そして、医療職などの方は、ぜひ介護の扉を叩いてみてください。
医療は「治癒という将来のために、今日を我慢してもらう」という考えですが、介護は「今日を一番楽しく過ごしてもらう」という考えです。病院で勤務していた看護師が「治る見込みのない病気の子どもが『病気が治ったら遊園地に行きたい』と言ってきたときに『治るから、治療頑張ろうね』と嘘をついたことが辛かった。介護であれば、そうした夢を叶えてあげられるはず」と介護業界に転職してくることもあります。
こうした介護職の魅力・面白さを1人でも多くの人に体験してもらいたいと思います。