あなたのお仕事について具体的に教えてください。
サービス種別を問わない介護事業者の団体「一般社団法人全国介護事業者連盟」の理事長です。「サービス種別や保有する資格の枠を超えて介護に関係する人たちの力を一つにまとめよう」という理念の元、2108年に設立しました。「現場視点によるサービス品質向上を目的とした制度改革の推進」「科学的介護手法の確立と高齢者自立支援の推進」「業務効率の向上を目指し、制度のシンプル化、介護現場のICT化・ロボット活用の推進」「介護職の処遇改善・ステータス向上等の人材総合対策の推進」「将来を見据え、海外・アジアの介護産業化の推進」の5つの目標を掲げて活動しています。
現在、全国6つのブロック支部と23の都道府県支部があります。また障害福祉事業者の部会もあり、こちらは全国6都道府県に支部があります。
この仕事を始めたきっかけを教えてください。
今から15年ほど前に大手介護事業者で勤務をしていたときに、介護保険制度改正・介護報酬改定を議論する、国の社保障審議会介護保険部会・介護給付費分科会のメンバー構成に疑問を持ったことがきっかけです。介護サービスのことを話し合う場なのに、メンバーには実際に介護事業を手がける人は僅かしかいませんでした。「これでは多くの介護事業者の声が国に全く届かないではないか」と危機感を持ちました。そこで、従来のような特定の介護サービス種別に限定された団体ではなく、介護業界全体を横断するような組織をつくって介護業界を一つにまとめると同時に、業界の発言力を強める必要があると実感しました。
あなたの強みは何ですか?
大きく2つあります。まず「信念の強さ」があげられます。一度決めたことは軸がブレることなく最後まで遂行する力があります。「介護業界全体を横断する組織を作りたい」という想いについては、設立を思い立ってから介護業界の様々な人に伝えて来ました。誰もが「そうした組織は必要だ」と、考え自体には賛成してくれました。しかし同時に殆どの人が「それは無理だ」と言いました。誰もが理想のこととは思いつつ、実際に成し遂げられなかったことを形にできたのは、信念の強さがなせる業だと思います。
もう1点が「苦手な人がいない」ことです。仮に、目の前にいる人の考え方や性格などに自分とは相入れない部分があったとしても、「嫌なところ以上に好きなところを見つける」ことができます。この結果として、様々なタイプの人たちが自然に私の周りに集まるようになりました。例えば、当連盟のメンバーの中には、「介護は奉仕の心が大事。採算は二の次」という福祉的な考えが強い人もいれば、「介護もビジネスである以上、利益を追求するのは当然」という経営者肌の人もいます。本来ならば意見がぶつかりがちな人たちをひとつにまとめあげていられるのも、私のこうした性格によるところが大きいでしょう。
あなたの使命とは何ですか?
ご存じのように21年の介護報酬改定率はプラス0.7%という結果でした。中でもデイサービスは15年・18年の報酬改定はいずれも厳しい内容でしたが、21年改定では自立支援や科学的介護の実践、重度化防止などを中心に、国が推進する施策に添った取り組みを行う事業所については報酬面でかなり評価されるようになりました。今はデイサービスの業界団体もありますが、当時はデイサービスだけを運営している事業者が入れる業界団体はなく、彼らの声が国に届きにくい状況でした。21年の改定結果については、デイサービス事業者も加盟できる当連盟の存在・活動が少なからず形になったものと自負しています。
24年の報酬改定は、新型コロナの感染防止対策などで国の財政が非常に厳しい現状などからあまり期待ができないだろうと言われていますが、食材価格やガソリン代の高騰、人件費の上昇など介護事業者が直面している課題を国や保険者に対してしっかり訴え、良質な介護サービスを提供できる環境を維持することが私の責務と考えています。
それと同時に、介護事業者に対しては、LIFEの効果的な活用方法などの情報やノウハウ、メソッドを提供し、厳しい環境を勝ち抜くことができるようサポートしていきたいと思います。
あなたのこれからの夢を聞かせてください。
2023年度末、つまり次回の介護報酬改定までに当連盟の支部を全国47都道府県に設立することです。また、現在の加盟事業所数は約1万6000事業所ですが、2023年度末に業界の1割に相当する2万4000事業所の加盟を目指します。団体として何か要望や提言をするときにも、業界内でのシェアが1割あることが大きな影響力につながります。
最後に、夢や目標に向かって新たな一歩を踏み出そうとしている方へ、メッセージをお願いします。
介護事業者で働いているときは「退職をしたい」と申し出てきたスタッフの面談もしていました。そのときは、本人に新たにやりたいことがあるなどの「前向きの理由」の場合には退職を止めることはしませんでした。しかし、単に現状から逃げたいなど「後ろ向きの理由」のときは「もう少し今の仕事を突き詰めていくことで、何か新しいものが見えてくることもあるのでは」と、退職しないことが悩みやトラブルの解決につながる可能性についても示してきました。
「新しい一歩を踏み出したい」「何かを変えたい」と思うときには、そう考えた理由を冷静に分析してみることが大切です。そして、それが前向きな理由であるときには、恐れることなく前に進むべきです。