――あなたのお仕事について具体的に教えてください。
介護福祉士として静岡市清水区の介護老人保健施設で勤務しています。介護業界での勤務歴は14年になります。また、ほぼ同じころからDJとして活動しており、今では音楽イベントの企画・プロデュース事業も行っています。
介護に関わっている自分だからこそできる音楽イベントがあるはず
――この仕事を始めたきっかけを教えてください。
介護については正直なところ、それほど強い動機もなく、もともと自分がおじいちゃん子・おばあちゃん子だったこと、人の役に立つ仕事をしたいと思ったことから高校卒業後に介護の専門学校に進みました。しかし、そのためか就職してからしばらくは「介護の仕事は世間的にイメージが良くないのでは」と考え、他の人にも自分が介護職をしているということはあまり話していませんでした。
DJは、以前から音楽をしていたのに加えて先輩から誘われたことで始め、当初はクラブなどで普通の音楽イベントに携わっていました。
8年ほど前に車椅子を利用している友人ができたのですが、クラブやライブハウスは車椅子では入れないことが多く、イベントを楽しめないという事実を目の当たりにし、「介護に関わっている自分だからこそできる音楽イベントがあるはずだ。それを実現させよう」と決意しました。この考えに至ってから介護の仕事についても前向きに関われるようになりました。
今では、障がいの有無や年齢などに関わらず、誰もが参加して楽しめる音楽イベント「INCLUSIVE」を年に3~4回東京で開催しています。また、往年のダンスミュージックや昭和歌謡などに合わせて高齢者が身体を動かす「シルバーディスコ」というイベントも、高齢者施設などを訪問して行いました。
その場の全員が楽しめる空間づくりにこだわる
――あなたの強みは何ですか?
「介護+音楽」という基本コンセプトに加えて、ファッションや美容、ネイルケアなどさまざまなコンテンツを、そのときの状況やニーズに応じてイベントに組み込んでいく柔軟さがあることです。
これまでの介護や福祉系のイベントというと、どうしても「真面目」「堅い」というイメージがありました。もちろん、来場者をはじめ世間一般に介護や福祉について正しい情報を発信し、啓発していくことは大事です。しかし、来場者が日頃の欲求やストレスなどを思い切り発散できる場であることも重要です。そのためには私たち運営する側の「エゴ」や「自己満足」で終わらないことが重要、という視線に常に立てていることも強みではないかと感じています。
あと、これは介護職として勤務先でのレクリエーションなどに関わる場合にも言えるのですが「利用者だけを楽しませればいい」という意識を持たないことを徹底できます。同じ介護スタッフや清掃スタッフなど、その場の全員が楽しめる空間づくりにこだわっています。
差別やいじめ、偏見はいけないということを自然に学んでもらいたい
――あなたの使命とは何ですか?
イベント「INCLUSIVE」は、その名の通り「多様性」を重視したイベントです。これを全国で開催していくことです。そこに多くの子どもたちに参加をしてもらい、差別やいじめ、偏見はいけないということを自然に学んでもらいたいと思います。
また、「シルバーディスコ」も全国で開催し、高齢者のADLやQOLの向上に寄与していきます。その前段階として、Zoomなどのオンラインで各地の高齢者施設をつなぐ形で開催し、大勢で一緒に音楽やダンスを楽しめるようにしていきたいと考えています。
介護業界の人たちがもっとさまざまな世界と触れ合える仕組みを
――あなたのこれからの夢を聞かせてください。
就職当初の私がそうであったように、介護の仕事についてまだまだ世間ではネガティブな印象が強くあります。それを「格好いい、イケている仕事」であり、憧れの職業という認識に変えていくことです。私がDJをしているように、介護業界には変わったスキルやユニークなキャリアを持った人たちが大勢います。しかし、現在の介護業界ではそうした個性を「活かす」のではなく、業務マニュアルなどで行動を均一化させて「消す」考え方の方が強いのではないかと感じています。
働く人たちが持つそれぞれのスキルや個性をもっと出せるようにすることが、介護の仕事をクリエイティブ職に変えることにつながります。そのためには介護業界以外からの力を借りることも必要でしょう。私が「INCLUSIVE」などの運営を通じて多くの業界とつながっているように、介護業界の人たちがもっとさまざまな世界と触れ合える仕組みを作っていきたいと思います。
なるべく多くの場所に高いアンテナを張りながら参加しましょう
――最後に、夢や目標に向かって新たな一歩を踏み出そうとしている方へ、メッセージをお願いします。
小さなコミュニティに留まっていては入って来る情報に限りがあります。それでは自身の成長につながりませんし、何か問題が生じたときに解決できる方法も限定されます。まずは勉強会、サークル、イベントなどなるべく多くの場所に高いアンテナを張りながら参加しましょう。人脈も増えますし、人生観そのものが変わることもあります。それらで得たものを日々に活かすだけでも、今の仕事への向き合い方が大きく変わるのではないでしょうか。また、そうした中で、本当に自分が好きなこと、やりたかったことが見つかるでしょう。
また、最近は私のように複業をする人が増えています。この場合「限られた時間の中で、いかに複数の仕事をこなすか」が課題になります。寝る時間や遊ぶ時間まで削ってしまっては体力もモチベーションも続かないでしょう。重要なのは「複数の仕事を効率よくリンクさせる」ことです。例えば、私の場合がイベントで見たり聞いたりしたことが介護職として働く上でのヒントになりますし、逆に介護現場で働いている最中にイベントのアイデアが浮かぶこともあります。