――あなたのお仕事について具体的に教えてください。
高齢者施設の経営改善や、介護人材の採用・育成支援などを目的としたコンサルティング会社HAPPY LEAFを経営しています。このほか、共同経営の形で、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーション、薬局、相談支援センターを大阪で運営しています。
介護業界を変えるには、まず経営者を変えよう
元々は全く別の業界で営業職として働いていましたが、交通事故でむち打ち症になってしまい、退職・療養を余儀なくされました。今後の自分の人生を考える中で、介護保険制度の開始が数年後に迫っている時期でもあったので「今から介護を学んでおけば、業界の先駆者になれるのでは」と思い、1997年にヘルパー2級の資格を取得しました。2000年に介護老人保健施設の立ち上げに参画し、そこで8年程勤務しました。
その後、ある医療法人の子会社が認知症高齢者グループホーム事業を新規で立ち上げることになり、私に声がかかりました。最終的にその会社では、合計23棟の新規開設に携わりました。
しかし、この会社には介護事業に対する理念がなく「スタッフが辞めても、いくらでも代わりはいる」という考えでした。社長にそれを諫めたところ解雇されてしまいました。そのときに「末端の社員にいくら熱意があっても、トップがダメならその会社に未来はない」と実感しました。「介護業界を変えるには、まず経営者を変えよう」と考え、15年前より介護事業者の経営改善に特化したコンサルティングを始めました。赤字の有料老人ホームを短期間で黒字化するなど、これまで全国で約150社の経営に関わってきました。
藤井さんに言えば、何とかしてくれる
――あなたの強みは何ですか。
「面接力の高さ」です。新たな会社にコンサルティングに入ると「大勢の従業員から一斉に辞表が出ている」という危機的な状況になっていることもあります。そうした場合には、私が1人1時間ぐらいかけて面談をします。私は介護現場での勤務経験も長いので、現場で起こっている課題や、それに悩む介護職の気持ちがよくわかります。それを上手く経営者に伝え、課題の解決につなげることができます。
そして、面談の場を、介護職の「ガス抜き」の場とするようにしています。当初は退職理由を聞いても、なかなか本当のことは話してくれません。しかし、経営者への不満をどんどん言わせることで「本当に嫌だと思っていること」が自然とわかってきます。それは「浴室のシャワーの一部が壊れているのに直してくれない」など、一見するととても些細で、すぐに解決できることだったりします。しかし、「シャワーを直して欲しい」という声が上層部にまできっちり届いていないことも多く、そのことが「会社は私たちの声に全く耳を傾けてくれない」と、愛想をつかしてしまう理由になっているのです。
「藤井さんに言えば、何とかしてくれる」と思ってもらえれば、退職の意思を撤回してくれる人も少なくありません。
高齢者施設に入っている人の生活を整える、笑顔を増やす
――あなたの使命とは何ですか?
「高齢者施設に入っている人の生活を整える、笑顔を増やす」ということです、身体的な機能の改善の面でも、認知症ケアの面でも、高齢者施設にできることはまだまだ多いと思います。しかし人手不足だったり、「何か新しいことをして失敗するリスクを取りたくない」「世間から批判されたくない」という考えだったりで、十分に取り組めていない高齢者施設が非常に多いと実感しています。
例えば、新型コロナウイルス感染症が流行している中では、多くの高齢者施設が入居者の外出や家族の面会を制限しました。このように住宅を閉鎖するのは簡単なことです。しかし、あと1~2年ぐらいしか残された時間のない入居者に、家族や友達に会うこともできない生活を送らせることが、介護に携わる立場として正しい選択だったのでしょうか。高齢者が「自分は独りぼっち」と感じながら人生を終えたことに対して、高齢者施設は何か責任を取ってくれたのでしょうか。
「利用者の幸せとはなにか」を、本当の意味でしっかりと考えられる介護業界にしていくことが私の使命と考えています。
介護職が持っている「優しい気持ち」を十分に発揮できる場を
――あなたのこれからの夢を聞かせてください。
コンサルタントとして15年介護経営者をサポートしてきましたが、自分が理想とする介護を実現するには、コンサルタントとしての立場では限界があります。そこで自身で認知症高齢者グループホームを立ち上げたいと考えています。既に大阪府吹田市の公募に申し込んでおり、2024年12月に結果が出る予定です。
ここでは、介護職が持っている「優しい気持ち」を十分に発揮できる場にしていきたいと考えています。介護職を志す人は、元々そうした気持ちが人一倍強かったと思います。しかし、今の介護事業所では、さまざまな事情から、折角のそうした気持ちを活かせない運営になってしまっているケースが多いのではないかと思います。
あなたの勇気ある転職が介護業界全体の健全化につながる
――最後に、夢や目標に向かって新たな一歩を踏み出そうとしている方へ、メッセージをお願いします。
残念なことに、介護事業者の中にはブラック企業としての体質が強すぎて、どれだけコンサルティングに入っても、全く変わることができないところがあります。不幸にもそうした会社に身を置いてしまった場合には、ためらうことなく転職しましょう。
自分の機嫌を取ることができるのは自分だけです。そして、自分を大切にし、自分の幸せを考えられない人が、他人を大切にしたり、他人の幸せを考えたりすることはできません。また、幸いにも介護の仕事は、転職したことがマイナスのイメージになりません。
ブラックな会社の経営者に「このままではいけない。自分や会社が変わらなくては」と自覚させることができるのは、優秀な人材が大量に辞めて、経営に影響が出たときだけです。あなたの勇気ある転職が介護業界全体の健全化につながるのです。